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画像ファイル名:1781356370368.png-(218898 B)
218898 B26/06/13(土)22:12:50No.1439633083+ 23:31頃消えます
逢引峠には伝説がある。
二人の走り屋が壮絶なダウンヒルを繰り広げ並んでゴールしたという伝説だ。
AE86(ハチロク)とランサーエボリューション。
ハイスピードカメラでも捉えられないほどの互角の差し合い。
二人(男女であった)は称え合い、惹かれ合い、子をなし、夫婦となった。
それ以来語り継がれる婚活円満成就伝説――。
「逢引峠でつかまえろ!」
126/06/13(土)22:13:10No.1439633199+
まばらな街灯がストップモーションのように車体を映し出す。
逢引峠まで残り500mの標識が出たが、誰も隣に並んでくるものはいない。
「退屈ね……」
マルゼンスキーは伝説など信じてはいなかった。
ただ自分が楽しめる渾身の走りができればそれで満足するウマ娘であった。
だってあたしが本気になってしまったら、誰もついてくることができないのだもの……。
ホンダS2000のオープンカーに緊張感はなく、80年代を彷彿とさせるシティポップが流れていた。
3速でだらだらと走行するハイXボーンフレームは物足りなそうに唸った。
ルームミラーからも視線を外して今日は孤独かと油断していたその時。
「いい車だ」
226/06/13(土)22:13:31No.1439633317+
ざらっとノイズ混じりの電子音声が鳴る。公共無線通信システムだ。
ちらとバックミラーに目をやると隣に追い上げてくる一台のトヨタGRヤリスが見えた。
暗さに加えてフロントガラスの加減で運転席の素性を確認することはできない。
「麓、市営駐車場まで、ご同行願いたい」
それは勝負の合言葉であった。大小さまざまのカーブが蛇腹のようにうねるダウンヒル、逢引峠。
マルゼンスキーは緩慢なシティポップを切り、両手でハンドルをしっかりと握った。
ぱぱぱ、と三回ライトを点滅させる。競走開始を告げる合図である。
直後、アクセルが一気に踏み抜かれ猛然とスタートダッシュが切られた。
反対側のGを感じてシートに体が押し付けられる。アクセルワークに狂いはない。
4速、5速を経過してタコメーターの値がぐんぐん上昇していく。
時速100kmを超えたときに注意喚起音として鳴るキンコンをマルゼンスキーは無視した。
326/06/13(土)22:13:52No.1439633442+
最初のカーブ、ぎりぎりまで引きつけて寸分の狂いもないラインでコーナリングを決めた。
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ……!!
再び直線に戻る。とふと背後にぴったりとついてくるGRヤリスの気配を感じた。
「やるわね」
「綺麗なコーナーワークだ。それに素敵な声だ」
「あら、それがあなたのナンパの手口ってわけ?」
「口説くのは勝負の後にしよう」
「残念ね。あたしはマルゼンスキー、あなたのことは何と呼べばいい?」
「……Tだ。Tでいい」
「そう。Tでいいのね。ずいぶん馴染みのある声をしているじゃない」
「……」
「ぶっ飛ばすわよ! ついてこれる!?」
どんっと弾丸のように再加速してS2000が5m、10mと距離を離してくる。
426/06/13(土)22:14:13No.1439633591+
第二コーナーは深いヘアピンに急激な高低差が追加された魔のカーブだ。
マルゼンスキーは少しもひるむことなくガードレールを突き破りそうな速度で入線する。
ブレーキングと共にタイヤの接地面が広がり、強く大地をグリップして車体が傾いた。
そのままアウトインアウトを維持して危なげなく抜けてくる。GRヤリスは――。
――ついてきた。
「あなたのことを誤解していたわ」
「どのように」
「あなたは何にも執着しない人かと思っていた。楽しんでいる人を遠巻きから眺めている人かと」
アスファルトのわずかな凹凸をサスペンションが拾い体が上下に揺れる。
「それがこんな女の尻を追いかけているなんてねッ!!」
S2000はGRヤリスの前を塞ぐように陣取り、中心線を越えて右車線近くまで入ってきた。
526/06/13(土)22:14:38No.1439633743+
第三コーナー、第四コーナーとS2000は絶好の位置取りでGRヤリスをかわしきった。
やはり――。
慣れていない。
車体を見ればわかる。勝負に取り憑かれた人間の車ではない。
走りにもそれは出る。教科書に書かれているような優等生的ヒールアンドトゥ。
だがそれでは届かない。このマルゼンスキーの喉元に食らいつくには、まだ。
「その程度なのッ!?」
第五コーナーの手前にはいくつもの注意喚起が敷かれている。
「減速!」「減速!」「この先急カーブ!」
626/06/13(土)22:15:03No.1439633898+
ぎゃぎゃぎゃぎゃ……がおん!!
S2000はガードレールからわずか数センチのせめぎ合いを制しカーブを曲がり切った。
一方でGRヤリスは毒牙を逃れられなかった。フロントがガードレールと激しく接触する。スピン。
ルームミラー越しにその車体がぐんぐんと小さくなっていくのがわかる。
追うもののなくなった道路で、マルゼンスキーは寂しくアクセルを緩めた。
「また……なの?」
自分は再び罪を犯してしまった。こうなることは目に見えていたというのに。
あたしは楽しんで走っているだけなのに、誰もついてくることができない。
F20C型2.0L・直列4気筒DOHC VTECエンジン。その本領を発揮して無事で済むものなど……。
全身に虚無感が満ちる。
カーステレオで気分を紛らわそうとした、その時。
ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど……。
726/06/13(土)22:15:24No.1439634030+
オープンカーだけが拾うことのできた重低音。絶対に知覚できないはずのタイヤの焼け焦げた匂い。
後ろから激烈に迫ってくるGRヤリスの獣のようなエキゾーストノート。
「は……ハイブーストぉ!?」
左のヘッドライトがめちゃめちゃに破壊されている。
赤黒い液体を垂れ流しながらギラギラと右のハイビームが輝く。
「やめなさい! トレーナー君! JAFを待つのよ! 勝負はもうついているわ!」
第六コーナー、第七コーナーを通過してもGRヤリスは決死の形相でしがみついてくる。
ミラーでその姿を確認する。ドライバーも頭を怪我しているようだ。
「なぜ! なぜなの!? 何があなたをそうさせるの!?」
がおんがおんと一層高くエンジンを鳴らしながら男は答える。
826/06/13(土)22:15:45No.1439634172+
「ひとつだけ」
すべての音が置いていかれたように遠くに聞こえた。
「ひとつだけ人生で譲れないものがあってもいい。たった一人の愛バのためならば」
愛バ? 愛バですって?
それは普段のトレーナーならば決して口に出さない類の言葉だった。
情にほだされることなく一段上の視座からみんなを見守っている教育者。
穏やかで何者にも敵対しない男。
それが今、我意をむき出しにして血眼になって勝利を求めている。
あたしというただ一人のためだけに。
「伝説を目にしたい。俺は今日、しにものぐるいになるよ」
「〜〜〜〜っ! あなたという人はっ!」
926/06/13(土)22:16:07No.1439634318+
ダウンヒルにおいてドリフト走行は過去のものになりつつある。
時代はグリップ走行全盛、どれほどまでに地に足ついているかを重視する。
S2000とGRヤリスは過酷な急坂において抜群のグリップ力を発揮した。
それはあたかもスピードスケートの舞台で闘う二人の競技者のようだった。
華麗なコーナリングにより先頭を譲ることもあれば、直線でのドッカンターボで距離を詰めることもある。v
一切の接触は見られなかった。S2000とGRヤリスは一体となって一つの生命体を駆動させていた。
音も衝撃も過去に置いてきたような極限の世界の中で、シフトチェンジだけは冷静で正確だった。
「ラスト、突っ込むわよ! トレーナー君、準備はいい?」
ルームミラー越しに男が頷くのが見えた。
1026/06/13(土)22:16:30No.1439634465+
逢引峠定点観測カメラは、逢引峠トンネルの出口に設置された監視カメラだ。
YouTubeライブ映像の同時配信も行なっていて、鹿や猪が見えると話題になり一時期視聴者数が跳ね上がった。
それでも深夜のチャット欄はひっそりとしていて、たまにスパムが湧くくらいで特に会話もない。
今、カメラの画角の上の方、トンネルの消失点のあたりから、二つの光点が迫ってきていた。
一台はS2000、もう一台はヘッドライトが片方壊れたGRヤリス。
いずれも先頭を譲ることなく、手前に向かって二台とも加速し、みるみるうちに車体が大きくなってくる。
そしてトンネルの出口、走り屋たちがゴールと称するラインを二台は並んで通過した。
後には轟音と舞い上がった埃だけが漂っていた。
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1126/06/13(土)22:16:54 No.1439634603そうだねx1
麓の市営駐車場には人気がなく、自動販売機がわずかな明かりを投げかけてきていた。
先に駐車したGRヤリスは満身創痍の状態で、バンパーはほとんど外れかけていた。
「乗る?」
S2000から降りたマルゼンスキーは、憑き物が落ちたかのように晴れやかな顔をしていた。
「勝負の後なら、口説いてくれるのよね?」
80年代シティポップがカーステレオから流れ始める。
マルゼンスキーは指を立てて、車のキーをくるくると回した。
語り継がれる婚活円満成就伝説――。
夜は長い。
1226/06/13(土)22:19:06No.1439635460+
車転がしてるんならこーいうのがいいよナ(笑)
1326/06/13(土)22:19:17No.1439635539そうだねx3
🌃🏩 🏎️=3
1426/06/13(土)22:20:05No.1439635830+
頭文字T
1526/06/13(土)22:22:04No.1439636602そうだねx1
S2000ってキンコン音鳴る時代のクルマだっけ!?
1626/06/13(土)22:23:16No.1439637060+
1726/06/13(土)22:35:42No.1439641994+
>ドライバーも頭を怪我しているようだ。
夜は長いじゃなくて病院に行きな
1826/06/13(土)22:41:33No.1439644351+
送迎最速理論を使えばいいのに

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